幸せの4つの因子

 

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授 前野隆司さんが科学的に幸せを分析している視点が面白く10冊程書籍を読ませていただきました。

家族の幸せ、社員の幸せ、地域の幸せ、日本の幸せ、世界の幸せを思うなら、この科学的に証明されている幸福学を応用して社会を良くしていきたいと思います。

 

以下は、前野さんのインタビュー記事です。

 

前野先生は、なぜ幸福学を研究しているのですか。

 もともとは、ロボットやヒューマンインタフェースの研究から派生したものです。一時期、ロボットに心をもたせることに興味をもち、工学と哲学の中間で「意識」を研究したことがありました。それが一段落したとき、哲学のなかで「倫理学」を残していることにふと気がついたのです。倫理学とは、人は何をすべきで、何をしてはならないのかを研究する学問で、どう生きると幸せになるかを研究するものでもあります。そこで2008年から、倫理学と工学の間で「幸福学」の研究をスタートしました。今も私は、幸福学は広い意味では応用倫理学だと考えています。

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 最初は、「幸せのメカニズム」に興味をもちました。調べてみると、世界中の心理学者や経済学者が個別にさまざまな研究をしているのですが、体系化されていませんでした。そこで、多くの研究成果を集め、幸せの全体像を理解していったのが第1フェーズで、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)に成果をまとめています。現在は第2フェーズとして、現実の「ものづくり」「ことづくり」「まちづくり」に幸せのメカニズムを埋め込もうと、さまざまなチャレンジを行っています。また、積極的に「幸せのワークショップ」を実施して、参加者一人ひとりの幸福度を上げる活動も展開しています。

長続きする幸せには、「4つの因子」があります

ズバリ、人はどうすれば幸せになれるのでしょうか。

 幸せには、長続きしない幸せと長続きする幸せがあります。長続きしない幸せは「地位財」による幸せです。地位財とは、金、モノ、地位など、他人と比べられる財です。ダニエル・カーネマンらは、感情的幸福は、年収7万5000ドルまでは収入に比例して増大するのに対し、7万5000ドルを超えると比例しなくなる、という研究結果を得ています。一定以上の経済的な豊かさやモノの豊かさは、必ずしも幸せをもたらさないのです。

 一方、長続きする幸せは「非地位財」による幸せで、ここには環境に恵まれている幸せ、健康である幸せなどのほかに、「心の要因による幸せ」が多く含まれています。私は因子分析によって、心の要因による幸せを「4つの因子」に整理しました。この4つを満たせば、私たちは長続きする幸せを手に入れることができます。

 では、その4つの因子をご紹介します。1つ目が、「自己実現と成長」の因子。夢や目標ややりがいをもち、それらを実現しようと成長していくことが幸せをもたらします。2つ目が「つながりと感謝」の因子で、人を喜ばせること、愛情に満ちた関係、親切な行為などが幸せを呼びます。3つ目は、「前向きと楽観」の因子。自己肯定感が高く、いつも楽しく笑顔でいられることは、やはり幸せなのです。4つ目に、「独立とマイペース」という因子があります。他人と比較せずに自分らしくやっていける人は、そうでない人よりも幸福です。

 この4つの因子を満たせば、「幸せなまち」を創ることができます。「つながりや感謝に満ちたまち」を創ろうとする試みは珍しくありませんが、同時に「自己実現と成長をもたらすまち」「前向きで楽観的になれるまち」「独立とマイペースを確保できるまち」も目指すのがよいというわけです。そのことを知るだけで、さまざまなアイデア、仕掛けや仕組みを考えることができるでしょう。

 企業の組織づくりも同じで、4つの因子を意識しながら改革を進めれば、社員が幸せになれる組織を生み出せます。例えば、坂本光司先生が『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)で紹介している事例は、幸せの4因子を満たした会社ばかりです。実は、「幸せと経営の研究」は世界的に進んでおり、社員が幸せになると、生産性や創造性が高まり、欠勤率や離職率が下がるというデータがすでに出ています。そのうち、企業の社員幸福度が重要になる時代がやって来るでしょう。

 「幸せなものづくり」とは、例えば「使っているうちにどんどん幸せになるカメラ」といったものです。買うとカメラサークルに入ることができ、作品を見せ合う場が得られるカメラがあれば、自己実現やつながりなど、4つの因子を満たすことができるでしょう。このように考えていけば、幸せな商品開発もさまざまな可能性を秘めていると思うのです。

誰でも達人になって、自己実現できるのです

幸せなまちづくりの実例を教えてください。

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 手前味噌ですが、私も研究にかかわった「芝の家」という場づくりプロジェクトがあります。慶應義塾大学の教員でもある坂倉杏介先生(東京都市大学都市生活学部・准教授)が手がけているもので、港区芝にある縁側つきの家がオープン時は出入り自由になっていて、近所の子どもたちやおじいさん、おばあさんなどが日々、憩いにやって来ます。そのうち徐々につながりが生まれて、自分たちで祭りをしよう、レコードコンサートを開こうといったことが次々に立ち上がっていきました。こうして皆が自発的にやりたいことを考え、行動できる場と仕組みを用意しておくと、4つの幸せ因子が自然と高まっていくのです。幸せのプロジェクトとして始まったわけではないのですが、優れた実例となっています。

 岡山にある「NPO法人 吉備野工房ちみち」の加藤せい子さんは、「誰でも達人になれる」とおっしゃいます。取り組みはシンプルで、アドバイザーの方々が、一人ひとりに「小学校の頃は何が好きでしたか?」などと質問を投げかけ、話を聞いていくのです。すると、だんだん自分がやりたかったことが明らかになってくる。それを追求していけば、それぞれ違った「達人」になれるというわけです。例えば、幼い頃に古墳が好きだった人が岡山の古墳の達人となり、古墳案内人として活躍されています。達人になれば、自己実現ができ、つながりが生まれ、前向きで楽しくなり、独立心も湧いてくる。達人育成の前後で達人やアドバイザーの幸福度を計測したところ、幸せの4つの因子が向上していることを確認できました。つまり、この活動は幸福度を高める活動なのです。

私たちはついつい、長続きしない幸せを目指してしまう

幸せの4因子を知れば、誰でも幸せになれるのですか。

 そこが難しいところで、たとえ4つの因子が大事だと知っても、私たちはついつい金、モノ、地位をどんどん手に入れたくなってしまう。もちろん、ある程度の地位財を手に入れるのはよいのですが、過剰になってはいけない。しかし、なかなか歯止めが利かないのです。これは環境問題と似ています。今、電気の使用を控えれば30年後の環境がよくなると言われても、どうしても冷暖房をムダに使ってしまいます。サステナブルな幸せ、サステナブルな環境のためには、「自制」が必要です。

 例えば、利他的な人はより幸せなことがわかっています。社会貢献活動への興味・関心と幸せには相関関係があり、誰かを幸せにしようとすると自分が幸せになることは学問的に明らかとなっています。もらったお金を自分のために使うか、他人のために使うかを調べた実験では、他人のために使った方が幸せになれることがわかっています。ところが、人は、自分のために使いたいと思いがちです。その場限りの幸せを目指してしまうのが人間なのです。では、どうしたら私たちは地位財への気持ちを自制し、長続きする幸せに向かっていけるのか。今、私が興味をもっていることの1つです。

右肩上がり偏重の企業経営は、人を幸せにしません

企業もついつい、短期的な幸せを目指しがちだと思うのですが。

 おっしゃるとおりです。短期間の売上や利益を重視した企業経営より、長期的な視点で経営していく方が社員は幸せです。人間と同じで、地位財(売上・利益拡大)と非地位財(安定)のバランスが大切です。ところで、日本には100年以上続く長寿企業がいくつもあります。日本はもともと、サステナブルな企業経営を好む幸せ国家だったのです。しかし、特に戦後以降、右肩上がり偏重の西洋式資本主義がどっと流入し、現在はそちらに偏りすぎているのかもしれません。これでは従業員はなかなか幸せになれません。実際、私は大企業の方々とよくお会いしますが、残念ながら、幸せそうな顔が多いとはいえません。

 ただし一方で、少子化が始まり、東日本大震災が起こり、環境問題が切迫してきて、日本社会が分岐点を迎えていることも確かです。例えば、最近の若者は「さとり世代」と呼ばれますが、彼らはサステナブルな幸せに向かっているようにも見えます。一般的には20代が最も利己的な時期なのですが、それにもかかわらず、社会貢献したい、利他的な活動をしたいという若者が見られるのは嬉しいことです。とはいえ、彼らにも問題はある。自己実現を軽視して、夢や目標なしで生きればよいのだと勘違いしがちな点です。少しでもいいから自己実現し、社会に貢献することが幸せに生きるために必要だということは忘れないでほしいと思います。

 また、20~40代を中心に、社会貢献や地域活性化を目的として起業、あるいはNPOなどを立ち上げる「社会イノベーター」が、まだ数は少ないですが増えています。彼らの特徴は、みな楽しそうだということです。収入が減った人も少なくないようですが、それを差し引いても仕事や生活が充実していると口々に言います。私の課題の1つは、彼らのような働き方をいかに大企業のなかに埋め込んでいくかということ。面白いアイデアを生み出し、周囲と共に価値を創出して、豊かになっていける働き方を、大企業でも普通にできたら、幸せな企業が増えるだろうと考えています。

幸せを感じるロボットが形になるのは、まだ先でしょう

ところで先生は、ロボットの専門家でもいらっしゃいます。今後のロボットについてはどのように考えておられますか。

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 一時期、私は「心をもったロボットを作ることができる」と豪語していました。今でも、「意識」をもったロボットは実現可能だと思っています。しかし、人間並みの「感情」をもったロボットが形になるのは、おそらく皆さんの想像以上に先でしょう。笑ったふりをするロボットは簡単に作れるのですが、本当に笑うロボットは難しい。創造性や感性を発揮すること、美しさや幸せを感じることなども、ロボットの苦手分野です。

 一方で、プロ棋士に勝つほど将棋に強い人工知能が開発されたように、コンピューターは知識や頭脳で勝負するのが得意です。医者ロボット、弁護士ロボットなどの頭脳労働ロボットは早晩でき上がるのではないでしょうか。だからこそ、人間はより幸せを目指す生き方にシフトして、単純労働や頭脳労働はロボットに任せればよいのではないかと思います。

日本には、幸福学の専門家はいまだに数人しかいない

先日、カナダのバンクーバーに行く機会があって、バンクーバー博物館を訪ねたのですが、驚いたことに幸福をテーマにした展覧会をしていました。日本ではなかなか考えにくいように思うのですが。

 現在の日本では、幸福学を多少手がける心理学者、教育学者などは多いのですが、幸福学の専門家はいまだに数人しかいません。それに対して、欧米には幸福学やポジティブ心理学を専門とする学者が何百人と存在します。欧米では、幸福が大事だと広く知られており、博物館で展覧会が開かれるくらいのパラダイムシフトは起こっていると感じます。

 ただ、日本人は幸せではないかといえば、実はそうでもありません。聞き方によって多少調査結果が変わってきますが、私の行った調査では、少なくともアメリカよりは幸せで、GDPが同じくらいの国と比べると、だいたい真ん中くらい。とり立てて幸せでも、不幸でもない国だということになります。日本人は、遺伝的にセロトニンの働きが弱いため、幸せを感じにくく、うつになりやすいともいわれていますが、私としては、だからこそ幸せのメカニズムを学び、予防していただきたいと思います。

コミュニティの幸せの鍵となるのは、弱いつながり

日本では、「幸福のパラダイムシフト」は起きないのでしょうか。

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 その点については、私は楽観的で、日本でもサステナブルな幸せを重視する方向へのパラダイムシフトはもうすぐ起こると考えています。「地位財から非地位財へ」という私の主張と同じことを、多くの方がおっしゃっていると常々感じているからです。「近代西洋型から古代型・東洋型へ」「貨幣経済からボランタリー経済へ」「競争から協創へ」「中央集権から調和型・ネットワーク型へ」「動物型社会から植物型社会へ」など、言葉はそれぞれ違いますが、いずれもサステナブルな社会や生活を目指そうとするメッセージです。まだ動きは小さいかもしれませんが、もうすぐ大きなうねりに変わっていくのではないでしょうか。

 例えば、「地域消滅」は、右肩上がりを重視した旧パラダイムの概念です。あくまでも自然と長く共生していくのが幸せを目指す生き方で、そこに地域の人口規模はあまり関係がありません。こうした見方が重視されてくるはずです。

 以前、アメリカのキリスト教の一派メノナイトを源流とする「CSA(Community Supported Agriculture:コミュニティに支えられた農業)」の研究をしたことがあります。地域コミュニティに根づいた完全契約農業で、地域の購入者が年の初めにお金を払い、農業者はできた分の作物を渡すというシステムで成り立っています。調べてみると、CSAに携わる方々の幸福度は、低収入にもかかわらず非常に高かった。だいたい農業者は、全体的に幸福度が高い傾向があります。食べ物に困らないという安心感・安定感が強く、土いじりが癒やしにつながることも影響しているのでしょう。CSAは地域とのつながりや、自分が役に立っている実感がより強い分、さらに幸せなのだろうと思います。農耕民は古代からサステナブルな生き方を志向してきたわけで、日本の地域には幸せのチャンスがたくさんあると思います。

 ただし、地域にはいわゆる「ムラ社会」の問題があります。コミュニティのつながりが強すぎることによる欠点があるわけです。そこで鍵になってくるのが、「弱いつながり」。岡壇先生の『生き心地の良い町―この自殺率の低さには理由がある』(講談社)という面白い本があります。この本によれば、徳島県の旧海部町(現・海陽町)は自殺率が極めて低いのですが、その理由は、「ゆるやかなつながり」や「いろんな人がいた方がよい」といった町の考え方にあるのだそうです。つながりが強いのもダメ、今の都市部のようにつながりがないのもダメで、都市と地域の中間、昔の良さと今の良さの中間に、落としどころがあるのではないでしょうか。

 引きこもりや独居老人が大きな社会問題となっていますが、彼らに必要なのも弱いつながりでしょう。その意味で、シェアハウス、コレクティブハウスなどの動きは面白い。私の友人は、母子家庭だけが一緒に住む「ペアレンティングホーム」を運営し、同じ境遇の人たちで助け合って生きる住まいを実現しています。以前、NHKでドラマになった「下町ボブスレー」についての研究も行なっていますが、この事例も印象的です。東京都大田区の下請け工場の方々が、ボブスレーづくりで一度協力して以来、さまざまな協業を行うようになったのです。こうした例で明らかなように、人々をつなぐ仕組みやきっかけを少し作るだけで、より幸せな社会を創ることができるのです。

インタビュー:古野庸一 テキスト:米川青馬 写真:伊藤誠

前野隆司氏プロフィール
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授
東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン株式会社勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て現職。博士(工学)。ヒューマンインタフェースのデザインから、ロボットのデザイン、教育のデザイン、地域社会のデザイン、ビジネスのデザイン、価値のデザイン、幸福な人生のデザイン、平和な世界のデザインまで、さまざまなシステムデザイン・マネジメント研究を行っている。

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