猫付箋についての思い出

四期生の季です。

休日に文房具の箱を整理したら、このかわいい猫付箋を見つかりました。

この付箋については、ちょっと切ないけれど、いい思い出もありました。

学生時代のことです。私の専攻では毎年地域調査を行っていました。

前年と去年の秋には長野県の上田市に訪ねました。

私が所属している班は老舗の調査を行っていたので、商店街の多数の店舗にも訪問していました。その中に、とてもオシャレな陶器屋がありました。

経営している方はとても優しそうな老夫婦でした。私たちに自分のお店を作った経緯や商店街の歴史を丁寧に説明してくださっただけでなく、３階建てのお店の全てを見学させてくださいました。

一番印象に残ったのは、階段の壁には、老夫婦の若い頃の写真がいっぱい飾ってありました。二人ともオシャレなものが大好きで、そして奥さんは特に綺麗な食器が好みで、綺麗なものに囲まれているような、自分の趣味を仕事にしようと考えて、この陶器屋を作ったそうです。多分最初の経営ではいろいろと大変なところあったと思いますが、今振り返ると全部二人の大事な思い出になったのでしょう。

猫の付箋は、調査が終わった際に、奥さんが「学生さんたちになにかプレゼントを渡そう」と言ってくださいました。

「本当に羨ましいわ、おじいちゃんおばあちゃんの仲は。将来も彼氏とはずっとあんなに仲良くて、一緒に人生を楽しめるといいなぁ．．．」あの日の帰る道で、私は班長にそう呟いていました。

そして昨年、コロナが商店街に与えた影響を知るために、私たちはまた昨年と同じお店にお邪魔しました。

たぶん、もともとほとんど地元の人しか利用していない商店街でしたが、さらに寂しげな佇まいでした。けれど、昨年お世話になった方々が元気でいらっしゃったので、それが何よりだと思いながら、陶器屋の老夫婦の穏やかな面影が浮かんできました。

しかし、調査の途中でカメラ屋さんから、「陶器屋の奥さんは、先月亡くなったよ」と聞きました。本当にその一瞬は、とても深い悲しみが湧いてきたようで、涙を我慢できなくなっていました。

実は一度しか会っていない人なのに、なぜか、とても切なくて、その日は一日中そんな気分だった。一度だけの会話でも、二人が共同の人生をしっかり経営してきた愛と情熱を深く感じていた。

先に天国にいったおばあちゃんのことより、悲しく感じさせたのは残されたおじいちゃんの気持ちです。想い出があんなに素敵だからこそ、全てが変わっていないように見えても、それでもただ彼女がいなくなった淋しさは、ずっと深いでしょう。

あの時の他の店舗への調査は計画通りに行いました。ただ、陶器屋の店を避けていました。店主のおじいちゃんは多分、まだ去年の同じ時期に、つくばから来ていた学生たちのことを覚えているだろうから。あの場におばあちゃんと一緒にいたから。思い出させるのは気の毒に思えたのです。

今ふと、そんな出来事を思い返してみると、彼女と一緒に豊かな人生を過ごしたからこそ、おじいちゃんの心も、きっと満たされていたんだろう。それはおじいちゃんのこれからの人生で続けていく中で、自分のことを大事にする力になれるんだろう。そう思います。

だって、陶器屋はまだまだ通常通りに営業しているんです。

大切な家族や仲間とのごく普通な日常でも、全部尊い時間だと今は深く感じています。

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