モノの価値

日本で第一号のプロ手話通訳者でありテレビや映画そして歌に詩に手話の振り付けをする手話コーディネーターでもあった丸山浩路さんの本でモノの価値に関して考えさせられる内容があったのでその一節を転記させていただきます。

木曽路のとある漆器店。陳列棚に二つの汁椀が並べられていました。

一つは一客900円。

もう一つは一客9000円。

素人目には、どこにそれほどの値段の差があるのか、はっきりとわかりません。

いぶかしく思っていると、

「お客様、どちらのお椀もお値段は一緒でございます。」

と店の主が言葉を添えました。

900円と9000円が同じ値段！?

ますます困惑していると、主はさらにこう続けました。

「こちらの900円の汁椀は、およそ千回の使用に耐えれます。
毎日、朝食にお使いいただいたとして、ほぼ３年弱でございますね。

一方、9000円の汁椀は素地も上等ですし、衣着せも本堅地ものでございますから、
およそ１万回、ご使用になられます。

毎日、夕食にお使いいただいたとして、３０年はもちましょう。

900円の汁椀が３年、9000円の汁椀が30年。

つまり、１回のご使用料はどちらも１円弱でございます。

お値段は同じと申し上げたのは、そういう理由からでございます」

なるほどと納得したつもりで、二つの汁椀を買い求め、毎日、朝夕に使い分け、３年近い月日がたちました。

店主の言葉どおり、900円の汁椀は３年近く使っているうちに、塗りが剥げ、ヒビらしいものが入り、
かなり傷みが目立つようになりました。

かたや9000円の汁椀のほうといえば、使えば使うほどに光沢に磨きがかかり、重厚美さえ帯びてきました。

話の核心はここからです。

塗りの剥げかけた900円の汁椀には、縁がちょこっと欠けた茶碗でも、
先がちびっとひび割れた箸でも「まあいいか」と、さほど気になりません。

箸置きなんて、むしろ邪魔なくらいです。

ところが、光沢と重厚美を増した9000円の汁椀となるとどうでしょうか。

その価値に見合った茶碗なり箸を用意したくなるのが人情というものではありませんか。

汁椀にふさわしい茶碗、お箸、箸置き……。

食卓全体を汁椀の価値に負けないくらいグレートアップさせたいと思うようになります。

モノの価値に関しては、多角的に物事を見る必要があると痛感します。

表面上の高い安いではなく、

「長く利用できるものなのか？」

「それを所有することによって日々ワクワクできるものなのか？」

「数年後に価値があるものなのか？」

……等々。

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